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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)3559号 判決 1965年3月20日

原告 東鋼材株式会社

右代表者代表取締役 吉岡良馬

右訴訟代理人弁護士 盛川康

被告 永和美装工業株式会社

右代表者代表取締役 堤亮

右訴訟代理人弁護士 一松弘

主文

被告は原告に対し金五〇万円およびこれに対する昭和三九年一〇月一三日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は次の約束手形二通を現に所持する。

(1)、金額二五万円、満期昭和三八年一〇月五日、支払地豊島区、支払場所株式会社東京相互銀行池袋支店、振出地板橋区、振出日昭和三八年五月二七日、振出人被告、受取人兼第一裏書人株式会社ヤスナガ、第二裏書人原告、被裏書人欄いずれも白地。

(2)、金額二五万円、満期昭和三八年一一月五日、その他の要件事項および裏書関係(1)に同じ。

二、右各手形はいずれも被告が訴外株式会社ヤスナガに対し振り出したものである。原告は右訴外会社から白地式裏書により右各手形の譲渡を受けた。

三、右各手形はいずれも振出日を白地として振り出されたもので、原告は昭和三九年一〇月一二日(本件第四回口頭弁論期日)に右振出日をそれぞれ「昭和三八年五月二七日」と記載補充して右各手形を提出した。

四、よって原告は被告に対し右手形金合計金五〇万円およびこれに対する昭和三九年一〇月一三日以降完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、被告の抗弁に対し、

1、被告主張の抗弁事実中、被告主張の内容証明郵便が被告主張の頃訴外株式会社ヤスナガに到達したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

2、原告が訴外株式会社ヤスナガから本件各手形の譲渡を受けたのは、いずれも昭和三八年九月七日である。すなわち、右訴外会社は本件各手形を取立委任のため訴外王子信用金庫(十条支店)に預けていたところ、昭和三八年六月二八日頃本件各手形を原告に譲渡することを約し、同年九月六日付内容証明郵便を以て右金庫(十条支店)に対し本件各手形を原告に譲渡したことおよび爾後原告のために占有すべきことを通知し、右郵便は翌七日右金庫(十条支店)に到達した。その結果原告は同日本件各手形の占有を取得し本件各手形上の権利を取得したものである。

と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告主張の請求原因事実はすべて認める。」と述べ、抗弁として

(一)、被告は昭和三八年五月二七日訴外株式会社ヤスナガから横型油圧一五〇屯ダイガストマシン一台、合金炉およびバーケその他附属品一式を代金三〇〇万円で買い受けることを約し、右代金の一部支払のため同日本件手形二通を右訴外会社に振り出した。しかるところ右訴外会社は右契約を履行しないので、被告は同年九月二五日付内容証明郵便を以て契約解除の意思表示をなし、右郵便はその翌日頃右訴外会社に到達した。したがって被告は右訴外会社に対し本件各手形金を支払う義務はない。

(二)、右訴外会社はこれより先、本件各手形を訴外王子信用金庫(十条支店)で割引き右金庫にこれを譲渡していたが、右金庫は満期に支払場所に右各手形を呈示して支払を求めたが、いずれもその支払を拒絶された。そこで右金庫は右各手形債権を以て右訴外会社の右金庫に対する預金債権と相殺した。

(三)、原告はその後右訴外会社から原告主張の(1)の手形を昭和三八年一〇月九日頃、(2)の手形を同年一一月九日頃、それぞれ譲渡を受けたものである。したがって被告は訴外株式会社ヤスナガに対し有する前記人的抗弁を以て原告に対抗する。

と述べた。

≪証拠省略≫

理由

原告主張の請求原因事実はすべて当事者間に争がない。よって被告主張の抗弁について判断する。

被告は原告が訴外株式会社ヤスナガから本件各手形の裏書譲渡を受けた日時は、(1)の手形は昭和三八年一〇月九日頃であり、(2)の手形は同年一一月九日頃であると主張するのに対し、原告はいずれも同年九月七日であると抗争するので、この点につき按ずるに、≪証拠省略≫を綜合すると、訴外株式会社ヤスナガは昭和三八年五月末頃本件各手形を訴外王子信用金庫(十条支店)で割引き白地式裏書によりこれを右金庫に譲渡したこと、右訴外会社はその後間もなく手形の不渡を出したため、右金庫(十条支店)は約定により同年六月二六日本件各手形債権と右訴外会社の右金庫に対する預金債権とを対当額において相殺して決済したが、右訴外会社の依頼により取立委任のため本件各手形を預り保管していたこと、訴外株式会社ヤスナガは本件各手形が前記のように決済されたので、その頃本件各手形を原告に譲渡することを約し、同年九月六日付内容説明郵便を以て訴外王子信用金庫(十条支店)に対し本件各手形債権を原告に譲渡したことおよび爾後原告のため本件各手形を保管して取立をなすべき旨通知し、右郵便は翌七日右金庫(十条支店)に到達したこと、右金庫は本件各手形をそれぞれ満期に支払のための呈示をしたが、いずれもその支払を拒絶されたので、満期の直後に本件各手形をそれぞれ原告に交付したこと、以上の事実を認めるに足り≪証拠の認否省略≫

右の事実によれば訴外王子信用金庫(十条支店)は昭和三八年六月二七日以降は本件各手形上の権利者である訴外株式会社ヤスナガの代理人として、右訴外会社の白地式裏書のある本件各手形を所持していたものであるところ、右訴外会社は本件各手形を原告に譲渡することを約した上、同年九月七日到達の郵便を以て右金庫に対し、爾後原告のため本件各手形を所持すべき旨指図したことが明らかである、しかして、手形の裏書譲渡は手形の現実の交付を必要とするものではあるが、右のように手形権利者が第三者をして所持をなさしめている自己の白地式裏書のある手形を他に譲渡せんとする場合には、その第三者に対し、爾後譲受人のため、当該手形を所持すべきことを指図することだけで足り、必ずしも譲渡人から譲受人に対する手形の現実の交付をなす要はないものと解すべきであるから、本件各手形は昭和三八年九月七日訴外株式会社ヤスナガから原告に対し、裏書譲渡があったものとなすべきである。それ故、本件各手形がいずれも期限後に裏書譲渡されたことを前提とする被告の抗弁は、その余の争点につき判断をなすまでもなく理由のないことが明らかであるから、被告の抗弁は採用できない。

それなら、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 兼築義春)

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